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大阪簡易裁判所 昭和40年(ろ)2814号 判決 1966年3月05日

被告人 藤本長吉

主文

被告人を罰金五、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四〇年八月三〇日午後四時三〇分ころ大阪市東住吉区今林町三四五番地附近道路において、普通貨物自動車大四い七四三五号を運転して道路の右側部分を通行したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

道路交通法一七条三項、一一九条一項二号の二(罰金刑選択)刑法一八条、刑事訴訟法一八一条一項本文

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人の本件右側通行行為は、被告人と同方向に進行する大型貨物自動車が、鉄管を車体後方に突出して積載し先行したものであるが、路面の凹凸のためバウンドしてその積荷が落下する危険があつたため、已むを得ずなしたものであり、被告人には本件行為に際し他の適法行為に出づることを期待し得ないものであるから、被告人の本件行為は、(一)、道路交通法一七条四項三号にいう「その他の障害により当該道路の左側部分を通行することができない」場合であつて、同条三項の除外事由にあたるから罪とならない。(二)、かりに、右除外事由にあたらないとしても、緊急避難として適法な行為であり、(三)、緊急避難にあたらないとしても、期待可能性がなく、責任が阻却されるから、無罪の判決を求めると主張する。

よつて、判断するに、前掲各証拠を総合すると、

被告人は、判示日時場所で判示自動車を運転して南より北に向け約三〇キロメートル毎時の速度で進行中であつたが、右道路の左側部分は約一二メートル余の巾員を有し、アスフアルト舗装を施され、三車輛通行帯が設けられ、路面は平坦で凹凸がなく、被告人は右道路の左側部分の中央寄り第三車輛通行帯を進行していたが、その運転する車輛の進路の直前にはミゼツトと称する小型自動車(以下先行車という。)が先行し、さらにその直前には弁護人の主張する大型貨物自動車(以下先先行車という。)が、鉄管を車体の後方に約一メートルないし二メートル突出して積載して進行し、被告人は右先行車および先先行車に約三〇メートル追随しており、被告人運転の車輛の左側には乗合自動車が並進し、右地点から北方近距離には信号機が設置され、これにより交通整理が行われている交差点があり、本件行為当時右信号機は南北方向に止まれ(赤)を表示しており、道路右側部分を反対方向から来る対向車がなかつたことが認められるが

(一)  「道路交通法二六条一項によると、車輛等は同一進路を進行している先行車が急に停止したときにおいても、これに追突するのを避けることができるため必要な距離を保たなければならないと規定しているのであるから、同法一七条四項三号にいう「その他の障害」とは、駐車中の車輛または故障のため運転不能の車輛等をいい、進行中の先行車や、先行車の直前を進行する車輛の積荷落下の虞れある場合は、これを含まないものと解するのが相当であるから、被告人の本件行為は同条三項の除外事由にあたらないものといわなければならない。

(二)  当時先先行車の積荷の落下により被告人の生命、身体に対する危難が現に切迫していたものとは認められない(被告人の当公判廷の供述中、路面は凹凸があつて、先先行車は前車輪を地上約三〇センチメートルまでバウンドさせて進行中であり、被告人の運転する車輛との間隔が五、六メートルに過ぎなかつた旨の供述は措信しない。)し、かりに右のような危難が切迫していたとしても、被告人は停止または徐行して、先行車ひいては先先行車との間に必要な車間距離をとつて、右危難を容易に避けることができたものといわなければならないから、被告人の本件行為を緊急避難ということはできない。

(三)  被告人が本件行為に際し、他の適法行為を行うことができることは右に説示したとおりであるから、被告人に他に適法行為に出づる期待可能性がなかつたものということはできない。

よつて、弁護人の右主張は、いづれもこれを採用しない。

(裁判官 巽仲男)

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